依存症の理解を深めるためのトーク&音楽ライブイベント
「みんなで考えよう 依存症のこと」を開催

 2024年3月7日(木)、東京都千代田区の神田スクエアホールにて、厚生労働省主催の依存症の理解を深めるためのトーク&音楽ライブイベント「みんなで考えよう 依存症のこと」が開催された。MCは依存症啓発サポーターであるお笑いコンビ「チュートリアル」の福田充徳さん、進行補佐は医療ジャーナリストの森まどかさんが務めた。

アルコール、薬物、ギャンブル等、身近にある依存症

 はじめに、国立精神神経医療研究センター薬物依存研究部の精神科医、松本俊彦先生が、依存症の定義、そして依存症の中でも特に患者数が多い、アルコール、ギャンブル、薬物依存症について紹介した。

松本先生(右)の解説を聞く福田さん(中央)と森さん

 依存性薬物の一種であるアルコールを摂取すると、脳内の報酬系という部分からドーパミンが分泌され、快感を得ることができる。繰り返し飲んでいるうちに身体が慣れて酒量が増え、社会的にも健康にもトラブルが起きているのに、飲酒をやめることができなくなってしまう。これがアルコール依存症の症状・特徴なのだという。松本先生の解説を受けて、福田さんは、2006年のM-1優勝以降、多忙を極めていた時期から酒量が増え、毎晩のようにブラックアウトを繰り返していたところ、急性膵炎(すいえん)になって倒れてしまった経験談を明かした。
 また、福田さんの周囲には、ギャンブルで借金を背負ってしまい、芸人を辞めてしまった仲間がいたという。ギャンブル等依存症の場合は、ギャンブルをすると報酬系が刺激されドーパミンが分泌される。最初はギャンブルに勝つと出ていたドーパミンが、「勝つかもしれない」という予測だけでも出るようになり、次第に掛け金が大きくないと興奮しなくなってしまう。さらには、負けても「負けた分はギャンブルで取り返そう」と考えてしまう。そうして借金を重ね、生活費や会社のお金にまで手を付けてしまうなどの問題を起こしてしまうのが、ギャンブル等依存症の特徴だ。

依存症啓発サポーターとして、自身の経験も語る福田さん

 薬物依存症は、一般的に「薬物を使うとめくるめく快感が体感できる」と思われがちだが、実際はそういった体験につながらず、拍子抜けすることが大半だそうだ。ただ、その薬物を勧めてきた人が憧れの人だったり、使わないと仲間外れになると考えたりすると、その後も使用を重ね、気付けば薬物が中心の生活になってしまうという、人間関係の問題が根底にあるケースが多いという。

ストレスやプレッシャーから依存症へ


  続いて、応援アーティストの「ガガガSP」も加わりトークコーナーへ。ガガガSPは、2000年代の青春パンクブームの火付け役であり、CMソングやメッセージ性の強い楽曲で支持を集めるバンドだ。ボーカルのコザック前田さんは、2010年ごろからアルコールと睡眠薬の依存症となり、17年に精神科病院に入院。現在も治療を続けているという。当時、忙しさから不眠に悩んでいた前田さんは、病院で処方された睡眠薬の副作用である高揚感を求め、アルコールと混ぜて過剰に服用するようになった。ベースの桑原康伸さん、ドラムの田嶋悟士さんは、彼が隠れて睡眠薬を飲んでいたり、ライブ中に眠そうな顔をしていたりすることは知っていたが、本人には指摘しづらい空気を感じていたという。酩酊(めいてい)状態が続く前田さんに対し、バンドメンバーや家族、スタッフを交えて話し合いはしていたものの、強くは注意できなかったそうだ。

アルコール・睡眠薬依存の体験談を話すガガガSPのコザック前田さん(中央)

 そんな中、17年のゴールデンウイークに転機が訪れた。病院が休みで手持ちの睡眠薬が少なくなり、しらふの状態がしばらく続いたのだ。自身の状態を冷静に見つめることができた前田さんは、依存症治療のための入院を決意した。入院先で、自分と同じように依存の問題を抱えている人たちと気持ちを共感し合えた経験は、安らぎにつながったという。退院後も、前田さんは月1回の通院のほか、自助グループに通い、睡眠薬とアルコールを断った生活を続けているという。前田さんの治療回復にあたって、ギターの山本聡さんは、「自分の母親もアルコール依存症でお酒を10年以上やめ続けている経験があったので、母親に相談して、当事者との接し方などに関するアドバイスをもらった」という。
 これらの体験談を受け、松本先生は、依存症患者の回復における自助グループの役割の大きさを強調した。また、依存症患者に対して「意志が弱い」「道徳心がない」といった誤解をしている人が多いことが、当事者や家族が周りに相談しづらく、回復につながりにくい状況をつくってしまっているという。そのため、前田さんのように病気を公表してくれる方がいることは、依存症の理解が広まる上で良いことである、と松本先生は話した。
 最後に、前田さんから「しらふというか、クリーンな状態でいられる喜びを、皆さんにも知ってほしい。そのためにも、発信は続けていこうと思っています」と、依存症に苦しむ方たちへのメッセージを送り、『ロックンロール』『これでいいのだ』『イメージの唄』『つなひき帝国』『晩秋』の5曲を披露。最後の曲『晩秋』は、「人間の一番の目標は、自分の寿命まで思いっきり生きるってことだと思います。そういう歌をやらせてください」という前田さんの力強いMCから演奏された。

力強いパフォーマンスで会場を盛り上げたガガガSP

「一人じゃない」と思えるつながりの重要性

  イベント後半は、依存症の当事者・家族である著名人をゲストに迎えたトークコーナーから始まった。トークには、父親がアルコール依存症だった俳優の東ちづるさん、薬物依存症の治療・回復を続けている俳優の高知東生さん、橋爪遼さんが参加した。進行は元NHKアナウンサーの塚本堅一さんが務めた。ギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子さんも参加し、当事者や家族が相談先につながることの重要性について、経験談をもとに考えていく内容となった。
 高知さんは、20歳で上京した時、憧れの先輩に近づくために違法薬物を使用したのが依存症になるきっかけだったという。知人の紹介で自助グループにつながり、自分と向き合えるようになった高知さんは、「みんな生きづらさを隠しているけど、弱さをさらけ出すことが何より強い、ということに気付いてほしい。僕もそれで救われたので」と話した。橋爪さんは、知人から薬物を勧められ、つい好奇心から手を出してしまったという。保釈後に回復施設に入り、プログラムの一環で自助グループとつながることができたという。
 東さんの父親はアルコールが原因の病で吐血し病院に運ばれ、それでもお酒を控えることができず、15年間入退院を繰り返した。家族は世間に父親が依存症であることを知られないよう苦心する日々だったという。父親の死後に母娘でカウンセリングを受けて、「アルコール依存症は、恥ずかしいことではなく病気である」と知った。東さんが依存症家族のことを世間に発信する活動をするようになって、「実は私も」という声が多く寄せられ、活動が自身の癒やしにもつながったそうだ。

体験談を元に自助グループの重要性を話す高知さん(左から3人目)

 田中さんによると、自助グループは、当事者だけでなくその家族にも効果が大きいことがポイントだという。さまざまな苦労をした依存症患者の家族は、自助グループで同じような経験をした人たちの話を聞くことで、癒やしにもなり、知識を得ることで、間違ったサポートをやめる勇気が出るのだという。「共感は力であり、同じ立場の人だからこそ安心してさらけ出すことができる」と話した。
 福田さんの「依存症に苦しむ当事者やその家族に、どんな声掛けをしたいか」という質問に、東さんは「依存症は病気で、専門医もいるし、回復施設もあるよ、ということ。もっと日本もリスタートできる社会になるといいな」と答えた。橋爪さんは「依存症からの回復方法を伝えることは大事だが、押し付けられると拒否反応を起こしてしまう当事者もいると思う。それよりも同じ目線で一緒にやってこう、と言いたい」と、治療中の当事者ならではのメッセージを伝えた。高知さんは「他人の顔色をうかがうなということ。思っているよりも他人は自分のことを気にしてない。自分を大事にして、苦しかったら助けてくれ、と声を上げることが大切」と、自身の経験から得た思いを語った。

依存症にまつわる「こんなときどうする?」


 最後に、ライブパフォーマンスを終えたガガガSP前田さんも再登壇し、再現VTRを視聴しながら、依存症の家族や周囲の方がやってはいけない対応について学んだ。
 一つ目のエピソードは、息子のギャンブルによる借金を両親が肩代わりしてしまうという、ギャンブル等依存症の家族がやりがちなケースが紹介された。田中さんによると、ギャンブルに限らず、依存症患者は自分に問題があることをなかなか認められないことが多いそうだ。本人が、依存症が原因で人生が立ち行かなくなることを体感し、回復を目指すターニングポイントが大事となるため、「周りが問題の後始末をしては駄目。まず本人が問題を自覚し、その上で自助グループや相談機関につながってほしい」と解説した。

依存症当事者の借金を家族が肩代わりしてはいけないことが紹介された(再現VTR抜粋)

 二つ目のエピソードは、娘が不審な薬物を通販で購入していたことに気付いた両親が、逮捕を恐れて家族だけで抱え込んでしまうケース。松本先生によると、家族だけで抱え込むことで、薬物依存が悪化していくケースは非常に多いそうだ。最近は市販薬のオーバードーズ(過剰摂取)も多く、依存症につながる事例もあるため、松本先生は「市販薬・処方薬は適切に使用してほしい」と話した。また、まず家族が精神保健福祉センターなどの相談窓口に相談することが回復への第一歩であることを強調した。電話相談窓口は匿名でも対応可能で、通報されることはないので、安心して相談してほしい。
 依存症は当事者一人が抱える問題ではない。本人や周りが正しく理解を深めることが、回復の近道でもある。このイベントをきっかけに、依存症のことを考える人が増えることを願う。

観客に向けて大きく手を振る出演者一同

本記事は「時事ドットコム」(2024年3月28日公開)にも掲載されています。

提供:厚生労働省「依存症の理解を深めるための普及啓発事業」事務局

チラシをダウンロード

開催日時2024年3月7日(木) 18:30~20:30
開催方法ハイブリッド開催(会場開催、オンライン配信)
会場開催神田スクエアホール
(〒101-0054 東京都千代田区神田錦町二丁目2番地1)
https://kanda-square.com/access/
参加費無料(申し込み制)
主催厚生労働省
出演者福田充徳さん(チュートリアル/依存症啓発サポーター)
ガガガSP
東ちづるさん(俳優/タレント/一般社団法人Get in touch代表)
松本俊彦さん(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部 部長)
高知東生さん(俳優/小説家)
橋爪遼さん(俳優)
塚本堅一さん(元NHKアナウンサー)
田中紀子さん(公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会 代表)
森まどかさん(医療ジャーナリスト/キャスター)