「回復できる」ことを伝えたい
「だらしない夫じゃなくて依存症でした」作者・三森みささんインタビュー

 依存症啓発漫画「だらしない夫じゃなくて依存症でした」の作者・三森みささんは、自身がカフェイン依存症に陥った経験を持つ。その経験をツイッターで発信したところ大きな反響を呼び起こし、それがきっかけとなって依存症啓発漫画の制作依頼が舞い込んだ。

―どういう経緯で「だらしない夫じゃなくて依存症でした」を描くことになったのでしょう?

三森みさ(以下『三森』) 沖縄で大学(那覇市の沖縄県立芸術大学)に通いながら、飲食店でアルバイトをしていました。お店のお客さんからイラストを頼まれて、それに応じているうちに作品もたまっていったので、ツイッターで発信していたのですが、そこに自分が病んだ経験を描いて出したら、いきなりフォロワーが増えたんです。

―それがカフェイン依存のことだったわけですね。

【三森】 はい。それまで実質100人くらいだったフォロワーが5000人まで増えて、ネットニュースでも扱われました。それが時事通信社の方の目に留まって、「啓発漫画を描かないか」と声を掛けていただきました。2018年11月のことです。

―ご自身の体験は「だらしない夫じゃなくて依存症でした」の「番外編」にも描いたものですね。

【三森】 読んだ人からは「本編よりも衝撃的」と言われたりもしましたが、もちろん自分の経験だけで啓発漫画は描けないので、本編のためにたくさんの資料を読み、取材にも行きました。

―取材はどのようなところに行かれたのでしょう?

【三森】 アルコールや薬物の依存から立ち直ろうとしている方たちが集まる施設や自助グループですね。そこで、(依存の)当事者や家族のお話を聞いて、病気への偏見や、本人だけではなく家族がどれだけ苦しむかも知りました。私は依存症が治らないと思っていたので、回復した人が「大変だったけれど、今は幸せです」と語ってくれたのは衝撃でした。漫画を通じて多くの人たち、依存症の実態をよく知らない人たちに「回復できる」ことを伝えたい、と心の底から思いました。

―「だらしない夫じゃなくて依存症でした」は第1話から順にネット上で配信される形で公開されました。三森さんのツイッターでも公開されていましたが、反応はどうでしたか?

【三森】 第3話までは依存症の症状や当事者が抱える問題の話だったのですが、第4話から家族の話になった途端、ものすごい反響があって驚きました。

―当事者だけでなく、家族の心情の描写がリアルだという感想も多く寄せられていますが、この作品を描く上で過去のご自分の経験で役に立ったことは何かありましたか?

【三森】 飲食店でアルバイトをして、お客さんと会話する中で聞き役になるのが多かったことじゃないかと思います。カウンターがあって、お酒も食事も出すお店で5年働きましたが、店長が少し変わっていて、「お客の話はラベルをはがした状態で聞け」と言われました。

―「ラベル」って何でしょう?

【三森】 会社での肩書や、「父親」であるとか「夫」であるとか、その人の社会的な立場のようなものですね。貼られたラベルのせいで「生きづらさ」が生じるので、それをはがした状態にしないと、リラックスはできないという意味なんだと思います。

―ラベルをはがした状態だと、本音を言えるわけですね。

【三森】 特に男性の場合、そのラベルのせいで「弱さ」を見せられない、「しんどい」とは言えないことが多くて、ストレスがたまるということがよく分かりました。

―そのストレスが、漫画にも描かれていた「心の穴」になって、それを埋めるために依存に近づいていってしまうのでしょうか。

【三森】 もちろん全員がそうだというわけじゃありません。私の場合は「絵を描く」ことが好きで、それを他人に認めてもらうことによって自己肯定感が得られるという回復プロセスがありました。でも、そうした自己肯定感を得られない人もたくさんいて、結果的に依存に向かうこともあるのだと思います。

―「心の穴」を埋めることは、当事者だけでは難しいという点も、漫画の中で描かれています。

【三森】 ただし、それは女性が、あるいは家族が(当事者の)ケア要員になれという話ではありません。そのことは書籍の描き下ろしで追加しておきました。

オンラインで自助グループ活動

―最近、オンラインで自助グループ活動を始められたということですが、それは依存症とは違う活動なのですか?

【三森】 実は依存症の取材の過程で知り合った方に紹介されて、親との関係から「生きづらさ」を抱えているアダルトチルドレンの自助グループに参加しました。そこで心の痛みを言語化して自分と向き合うことの大切さに改めて気づきました。オンラインの自助グループは、新型コロナウイルスの感染拡大で人と会うことが難しくなった時期に、匿名性の高いSNSならどうだろうと軽い気持ちで始めたら、思いのほか人が集まったという感じです。

―「外出できない」という状況は、自助グループの活動にも大きな影響を与えているわけですね。

【三森】 それ以前に、自助グループ活動のことは知っていても、「近くに自助グループがない」「他人と対面する勇気がない」「家から出たくない」という人が多いんです。オンラインならそのハードルを越えられますし、時間の自由も利くというメリットもあります。新型コロナがきっかけではありますが、オンラインが自助グループの活動に有効だということも分かりました。

―参加された方はどのように感じられているのでしょう?

【三森】 「自分の抱えている問題に向き合えた」といった感想を頂いています。

―「だらしない夫じゃなくて依存症でした」でも描かれていたように、自分の痛みと向き合うことが、まず必要だということですね。自助グループの活動は、これからも続けていかれるのでしょうか。

【三森】 参加希望者が増えているので、続けていきたいと思います。

―最後に「生きづらさ」を抱えている人に、メッセージを頂けないでしょうか。

【三森】 いま現在も生きてるのがつらいだろうなと思います。他人に言えなかったり、理解されなかったり、自分で自分が嫌になったり…。生きてればいいことがあるなんて言いませんが、自分の心の奥底にある「生きたい」「幸せになりたい」気持ちを忘れないでほしいと思います。それさえあれば0.1歩ずつでも前に進めますから。
お互いに頑張りましょう。

―ありがとうございました。

プロフィール

三森みさ

イラストレーター、デザイナー、漫画家。1992年生まれ、大阪府出身。
高校で美術・デザインを、大学で染色を学ぶ。
依存症啓発漫画「だらしない夫じゃなくて依存症でした」の作者。
Twitter @mimorimisa
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