【病気としての依存症】「やめられない」が病気って?

 依存症とは、アルコール、ギャンブル、薬物など特定のものをやめたくてもやめられず、社会生活にまで支障をきたす状態のことです。依存性のあるものを繰り返すことにより脳のブレーキにあたる部分が壊れ、欲求をコントロールできなくなってしまう病気です。
 というけれど、それって本当?どこからを病気というの?こういった疑問をもつこともあるのではないでしょうか。お笑いコンビ「なかよし」のコモリギャルソンさんは、日常的にギャンブルを愛好するといいます。コモリさんのお話を松本俊彦先生(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部部長 兼 薬物依存症治療センターセンター長)に聞いてもらい、「依存症である」という判断はどのように行うのか、そして、もし依存症かもしれないと思ったとき、どのような行動をとればいいのかについて伺いました。

プロフィール

コモリギャルソン

後藤奈央とお笑い芸人コンビ「なかよし」を2015年に結成。趣味は、インディアカというスポーツや刺繍、ロックフェス巡り、ファッションなどの他、地方競馬も含まれる。


松本俊彦

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部長、薬物依存症センター センター長
1993年、佐賀医科大学卒業。2004年に国立精神・神経センター(現国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所司法精神医学研究部室長に就任。以後、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神救急学会理事。
『トラウマとアディクションからの回復―ベストな自分を見つけるための方法』(金剛出版)、『「助けて」が言えない---SOSを出さない人に支援者は何ができるか』(日本評論社)、『本当の依存症の話をしよう -ラットパークと薬物戦争-』(星和書店)、『薬物依存症』(ちくま新書)など著書多数。

Q:どれくらいの頻度でギャンブルを?

【コモリ】 まぁまぁやりますね。普通に。

Q:自分が依存症気味だと感じたりしますか?

【コモリ】 いや依存はないですよ、さすがに。そんなグっと依存っていう重い言葉で来られても。 勝手に呼ばれて依存って言われるのはちょっと心外というか、納得いかないですね。 依存ではないです。さすがに。

Q:何してるんですか?

【コモリ】 え?これですか?日曜の競馬の枠順出たんで見てます。なるべく早く情報知っておいたほうがいいんで。楽しみです。

そんなコモリギャルソンさん。
専門の医師に少し自分の様子を聞いてもらいました。

【松本】 ギャンブルのことで、例えば先輩とか友達とか恋人、家族やなんかでもいいんですけど 文句言われたりしたことってないですか?

【コモリ】 んー、まぁそうですね。

【松本】 「やめろ」って言われたことあります?

【コモリ】 まぁ近い人とかはやっぱり言われましたね。

【松本】 あぁ…。

【コモリ】 でも聞かれるんで、あんまり言わないようにというか。言ってもいいことないんで。

【松本】言われるとやっぱりムカつきます?

【コモリ】 ちょっと、半分くらいですかね。

【松本】 例えば親から「アンタどこ行ってきたの?全然連絡つかないじゃん」と言われたりしたとき、ギャンブルだっていうとめんどくさいから適当なウソをついて誤魔化したりしたことってあります?

【コモリ】 全然ありますね。

【松本】 ありますか。「言うとめんどくさいからな」っていうことでウソついちゃうことがあるんですね?ギャンブルしてることについて。

【コモリ】 まぁまぁめんどくさいんで、はい。 でもそれであんまり別に迷惑とかはかけてないとは思います。

【松本】 勝ったときって、買ったお金どうします?大勝しちゃったとき。

【コモリ】 んー、まぁ、買えなかったものとか買いたかったものをとりあえず全部買ったり、次何に使おうかっていうことを考えたりしていますね。

【松本】 じゃあ勝ったものを、すぐに次の勝負の軍資金にしちゃう感じではない?

【コモリ】 まぁそれもありますね。全然。

【松本】 どっちが多いですか?軍資金にしちゃうのと。

【コモリ】 んー、まぁその軍資金にしちゃって全部なくなっちゃうこともあったので。モノに変えておいた方がいいかなみたいなのはありますね。

【松本】 なるほど。限度額とか決めてます?今日はこのぐらいにしようとか。

【コモリ】 まぁ一応決めてますね。

【松本】 その限度額はちゃんと守れますか?

【コモリ】 まぁまぁまぁ…って感じで。

【松本】 負けちゃったときにはどうします?

【コモリ】 負けた時に考える感じで。なんとか生活とかを抑えて、あるお金でやっていくっていう感じですね。

【松本】 負けちゃったり借金ができちゃったりしたときに「勝負で取り返す」という発想ではない?

【コモリ】 んー、まぁお金があれば最後まで勝負はしたいですよね。

【松本】 なるほど。

診断結果が出たようです。

【松本】 はい、じゃあコモリさん、診断をお伝えしたいと思います。「ギャンブル依存症予備軍」ですね。

【コモリ】 え?いやいやいや、それはないですよ。さすがに。予備軍?ギャンブル依存症ですか?

【松本】 そうですね。

【コモリ】 いやいやいや。だってそこまでギャンブルにのめりこんでないですよ?周りもみんなやってますし、趣味ですし、色んな競馬場とか行っても人いっぱいいますし、パチンコ屋さんもいっぱいいますよ?

Q:どうして「依存」が疑われると診断したのですか?

【松本】 ギャンブル依存症の人と単なる愛好家の方を見分ける時に、我々が注目すべき4つのポイント「LOST」ロストっていう風に僕らは言っています。 Lはリミットレス。限度額を設定しない、あるいは使いたい放題になってしまう。
それからO、これはワンスアゲインと言って、勝ったときに儲けたお金を次の軍資金にしてしまう。
それから次はSですね。シークレット。秘密を作る、ウソ作るっていうことですね。
そしてTがテイクバックマネー、要するに負けた時にまた取り返そうとするんですよ。
これ、4つの項目のうち2つでかなり怪しくて、3つ以上だとほぼ確実。
先ほどのコモリさんは、今現在2つか2.5くらいか、でも過去には全部総なめしたこともあるという意味で、昔ヤバかったけど今ギリギリ持ち直している。そんな状態かなと思います。

【コモリ】 依存症予備軍ってことは、僕はどうすればいいんですか?治せるんですか?治るんですか?

【松本】 まず、自分なりに工夫してみてほしいな、あの4項目の逆をやってみたらいいかなと思うんですよ。

【コモリ】 逆…。

【松本】 つまり、自分なりに限度額を決めてここまでっていう風にして、ルールを守ってみるとか。
それから、勝って軍資金を次の勝負にしちゃわない。
そして、これ後から詳しく言いますけど、みんなに正直に言う必要はないけれども「今日こんなに使っちゃった こんなに負けちゃった」ということを言える場所を作る。 言っても説教されないとかね、非難されない場所を作るっていうことが大事。
最後に、負けたらギャンブルで取り返そうとするのはやめて、負けたらしばらく運が付いてないからやめるとか控えるっていう手がいいかなと思うんですよ。

【コモリ】 無理に絶対に行かないようにしなくてもいいってことですか?

【松本】 そういうことですね。

Q:依存症かと思った方はどのようなことをすればいいですか?

【松本】 ギャンブル依存症は何科の病気かというと、精神科の病気なんです。 ただ、精神科に行けば必ず治療してくれるかというと、そうではありません。やはり依存症を専門としている医療機関に行く必要があります。
ただ、どこが専門の医療機関なのかわからない、あるいはいきなり精神科に行くということに抵抗感があるという方も少なからずいるのではないでしょうか。その場合にはにはですね、各都道府県・政令指定都市少なくとも1か所は設置されている精神保健福祉センターという保健行政機関があります。そこであればきちんと秘密を守ったうえで丁寧に相談に乗ってくれると思います。
「あなたは病院に行った方がいいですよ」というレベルであれば、病院を紹介してくれたり、あるいは人によっては病院より自助グループ、同じ問題を抱えている方たちのグループに行った方がいいという方もいるかもしれません。そういった情報も提供してくれると思います。
医療機関では様々な観点から医学的評価をもう1回きちんとやって、合併しているうつ病とか発達障害、そういったことも治療や養生法も助言していただきながら、認知行動療法に基づいたギャンブル依存症の回復プログラムを受けることができます。
ただし、本人はこんな風に治療を受けるんですけれども、一番大切なことは「周りの理解」なんですね。

Q:周りの理解というのはどのようなことでしょうか?

【松本】 おそらくご家族の方は、本人のギャンブルの問題をとても心配して、なんとかして本人に立ち直ってほしいと思って説教をしたり叱責をしたり、あるいは泣き付いたり懇願したりしてきたんだと思うんです。
実はですね、それらはあまり効果がないんですね。説教して治るわけでもないし、殴って治るわけでもない。あるいは愛情とか懇願で治るわけでもないんですね。 周囲の人間も依存症について勉強してほしいんですね。
そんな家族の方にもぜひお願いしたのが、先ほど申し上げた精神保健福祉センターに行くことなんです。
そこでは依存症の家族教室をやっています。また、地域の中にあるギャンブル依存症の家族の自助グループがあります。
そういった精神保健福祉センターの家族教室や家族の自助グループにご家族が通ったりすることで、本人に対する適切な対応法、説教したりすればいいというわけではない、あるいはクレジットカードを預かればそれで簡単に片が付くわけでもない、じゃあどうしたらいいの?ということを具体的に指導してもらえると思います。

Q:依存症予備軍という診断結果をどう思いますか?

【コモリ】 いや、びっくりしましたね。そういう病気というか、そういうのがあるというのも知らなかったですし。自分が依存症予備軍っていざ言われたときに、はじめて実感というか「そうなんだ」っていうのが思いましたね。

Q:今後どうしていきますか?

【コモリ】 そうですね、まず自分で家帰ってからもちょっと調べたりとかして。依存症っていうのに対して向き合って、ギャンブルといい距離感でやっていきたいなと思いました。

Q:最後に一言

【コモリ】 依存症ってほんとにめっちゃ身近なんだなと思いましたね。なんか全然自分とは関係ないものとか、病気とかそういう感覚っていうのはなかったんで。実際ギャンブルやめるとかじゃなくて、向き合って考えていくことが大事なんだなってことを思いましたね。めっちゃ身近なんだなって思いました。

依存症は回復することができる「病気」です。誰もが罹る可能性のある「病気」です。
ご本人、そして家族や周りの皆さん。
依存症かな?と思ったら、ぜひ依存症の相談窓口や専門医量機関、自助グループに問い合わせてください。必ずあなたの力になってくれます。

※ 言い回しや重複など動画の発言とは一部異なる記述となっています。