【対談記事】アルコール依存症:生きづらさと依存症
「アルコール依存症」は、慢性的な飲酒習慣によってお酒がないといられなくなる状態で、その影響は精神的にも身体的にも現れます。それは、決して他人事ではありません。あなたや、あなたの大切な人が、いつかこの問題に直面するかもしれません。
今回の対談では、依存症啓発サポーターに就任したお笑い芸人「相席スタート」の山﨑ケイさん、山添寛さんとともに、かつて生きづらさを抱え、アルコール依存症に苦しんだ経験のある「こわれ者の祭典」代表・月乃光司さんにお話を聞きました。
プロフィール
山﨑ケイ(相席スタート)
千葉県出身。NSC東京校13期生。2013年に相方の山添寛とコンビ「相席スタート」を結成。 2016年M-1グランプリファイナリスト。 ルミネtheよしもとなどで活動しているほか、「ザ・ラジオショー」(ニッポン放送)のラジオパートナーも務める。
山添寛(相席スタート)
京都府出身。NSC東京校14期生。お笑いコンビ「相席スタート」として活動。2016年M-1グランプリファイナリスト。趣味・特技は、とんかつ、鍋、麻婆豆腐、ボードゲーム、ボートレース、ギャンブル、心理戦。
月乃光司(こわれ者の祭典代表)
1965年富山県生まれ。心身障害者のパフォーマンス集団「こわれ者の祭典」の代表を務める。著書に「西原理恵子×月乃光司のおサケについてのまじめな話」(小学館)など。
【山﨑】 本日のテーマは「アルコール依存症」についてです。アルコール依存症の回復について、詳しくお話を伺っていきます。お迎えしたのは、作家であり、パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」の代表を務める月乃光司さんです。よろしくお願いします!
【月乃】 よろしくお願いいたします。パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」の代表を務めています月乃光司です。
【山添】 どのようなパフォーマンスをされていらっしゃるんですか?
【月乃】 「こわれ者の祭典」は現在、新潟市を拠点に活動しており、設立して20年以上が経ちます。アルコール依存症や引きこもりなど、さまざまな問題を抱えた人々が自分たちの経験をもとに、トークやパフォーマンスを通じてメッセージを届けています。
アルコール依存症の当事者である私の他にも、摂食障害や統合失調症などさまざまな精神疾患を抱えてきたメンバーで構成されており、回復のきっかけを掴むことができたヒントを、今苦しんでいる当事者の方々に向けて伝えたいという思いで始めました。

こわれ者の祭典
【山﨑】 「こわれ者」という名前についてですが、少し自虐的なニュアンスがありますよね。なぜその名前を付けられたのでしょうか?
【月乃】 「こわれ者の祭典」の活動は、お笑いが重要な要素なんです。啓発イベントって世の中にたくさんありますが、比較的真面目なものが多いんですよね。もちろん、それもすごく良いのですが、自分の体験として、共感を得たいときには、ユーモアや笑いを交えて表現した方が届きやすいというのがあり、重いテーマを少しでも親しみやすく伝えることを意識しています。最終的には「人間は皆こわれ者である」という、そういうメッセージを届けるのがコンセプトです。
【山﨑】 なるほど。ちょっと気になったのですが、今日の衣装もパジャマみたいですよね。
【月乃】 はい、父のお下がりのパジャマです。私がアルコール依存症の全盛期、引きこもり生活を送っていたときに着ていたもので、舞台に立つ時に衣装として着ています。
【山添】 ちょっとダメージ加工っぽくなっていますよね。
【月乃】 このパジャマを着ていた当時、私はお酒や処方薬を乱用していて、暴れては何度も引きちぎっていたんです。そのたびに、母がボタンや破れた箇所を丁寧に縫い直してくれて、そのことを思い出すためにこのパジャマを衣装として来ています。
発症のきっかけ
【山﨑】 そもそも、月乃さんがアルコール依存症になったきっかけは何だったのでしょうか?
【月乃】 依存症になるパターンには、大きく分けて2つのタイプがあります。1つは、メンタル疾患やトラウマなど「生きづらさ」を抱え、それを紛らわせるためにアルコールや薬に依存するタイプ。もう1つは、中高年期に長年の飲酒習慣が積み重なり発症するタイプです。私は前者のタイプで、高校生の頃から劣等感や対人恐怖症に悩んでいました。容姿コンプレックスというか、「醜形恐怖症」という自分の外見に対する強い不安や恐怖を抱えていました。自分の唇が厚くておかしいのではないかと感じるようになり、人と話すのが怖くなっていきました。
その結果、誰とも交流しない引きこもり生活が続くようになり、18歳頃には精神科を受診し、処方薬をもらうようになりました。
お酒も飲み始めたのですが、酔っている状態が一時的にでも自分のコンプレックスを忘れさせてくれるように感じたんですよね。この経験が、アルコール依存につながるきっかけとなりました。
お酒に頼る経緯
【山﨑】 最初にアルコールを飲み始めた時は、実家に住んでいたのでしょうか?
【月乃】 はい。当時は実家に住んでおり、埼玉の大学に進学したものの、2日ほど通っただけで恐怖心から通えなくなってしまいました。2年間ほど、名ばかりの学生としてほとんど家に引きこもり、お酒に逃げる生活を送っていました。
【山添】 お酒を飲んだ方が楽になるという気持ちはすごく分かりますね。普段お酒飲まないんですけれど、お笑いでスベッたったときとは、僕も飲みますもん。
【月乃】 ダメージがあると、どうしてもそうなりますよね。
「依存症」に気づくきっかけ・実態
【山﨑】 嫌なことがあったときにお酒を飲んで気を紛らわせる、というところまでは私自身も経験がありますし、多くの人が理解できる範囲だと思います。でも、その先、自分がどんどんお酒に頼るようになっていって「自分はアルコール依存症なのかもしれない」と自覚できるものなのでしょうか?
【月乃】 私はずっと、自分をアルコール依存症だとは思っていませんでした。
【山﨑】 やっぱりそうなんですよね。
【月乃】 「メンタルの疾患が治療で治れば、また普通にお酒を飲めるようになるはず」と思い込んでいました。でも、依存症というものはそう単純なものではないと、時間が経つにつれて理解するようになりました。
【山添】 1回でどのくらいの量を飲酒されていたのですか?
【月乃】 量というか、一日中酔っぱらっている状態です。振り返ると、24時間のほとんどを酔った状態で過ごしていたように思います。この状態が23歳から2年ほど続きました。
【山﨑】 体調は大丈夫だったのでしょうか?
【月乃】 悪かったですね。歩くだけで吐いてしまうほどでした。
【山﨑】 それは飲んでいる時や、薬を飲むと症状が落ち着くのでしょうか?
【月乃】 おっしゃるとおりです。家族が寝静まった深夜、私は家の中を歩き回り、親の財布からお金を抜き取って近くのコンビニにお酒を買いに行っていました。その頃は体調が酷く、歩くだけでも吐きそうだったため、ゆっくりと歩き、時々立ち止まる様子は、周りから見ても明らかに怪しい人物に見えたと思います。
【山﨑】 そんな必死な思いでお酒を買いに行かれていたのですね。18歳から飲み始めて、それが24歳くらいとなると、もう6年近くずっとお酒がないと生きていられない、お酒に頼って生きている状態だったのでしょうか?
【月乃】 そうですね。
【山添】 飲んでいない時は、体調にどのような症状が出ていたのでしょうか?
【月乃】 正直なところ、離脱症状がかなり出ていましたね。お酒が切れると、希死念慮やうつ症状が強くなってしまって。「自殺したい」と思ったり、実際に自傷行為をしたり、特にお酒が切れているときは、そういった症状が出てきましたね。
【山添】 メンタルを癒すために、またお酒を飲む。でも、お酒を飲むと今度は体調が悪化してしまう。このループが延々と続く状態ですね。
【月乃】 いろいろあって、幸か不幸か精神科の病棟に3回入院することになりました。最初の入院は、アルコール依存症ではなく自殺未遂がきっかけです。
入院して調べてもらったら、肝臓のγ-GTPの数値がものすごく悪化していることがわかりましたが、自分がアルコール依存症だという意識は持てなかったんです。
【山添】 それでも、依存症だという意識はなかったんですね。
【月乃】 なかったです。うつ病とかそっちの方かと思っていました。
【山﨑】 精神の病だということは分かっていたけれども、アルコールに問題があるとは思っていなかったのですね。
【月乃】 はい。自分の場合は、最初にメンタル疾患がありました。それを紛らわせるためにお酒を手段として使い、なんとか生き延びてきたんです。でも、その飲酒がエスカレートしていく中で離脱症状が出て、気づいたときにはアルコール依存症の状態になっていました。
3回目に入院したときにアルコール依存症の診断を受け、病院のプログラムの一環で、当事者会や自助グループの活動を紹介され、それが本当に大きなきっかけになりましたね。他の回復者たちの姿を見ることで、「自分も回復できるかもしれない」と希望を持てるようになったんです。
【山﨑】 まず自分が依存症であると認めるまでに時間がかかりますよね。私の周りにいるアルコール依存症の方も、「自分は違う」と言い張っていたんです。周りの人から「酔い方がちょっとおかしいよ」と忠告されても、「それはお酒を飲まない人から見たら、そう見えてるだけだ」と否定していましたね。周りからどれだけ指摘されても、自分が納得しないと病識は持てないものなんですよね。
【月乃】 そうですね。私も酒乱だったので、周りから「お酒をやめたほうがいい」としきりに言われたこともありましたが、聞き流していました。
【山添】 酒乱でもあったんですか、それは聞いてませんでした。

依存症からの回復
【山﨑】 お酒を断って30年以上ということですが、どうやってお酒を飲まない生活になっていったんでしょうか?
【月乃】 お酒をやめるための当事者会に繋がり、当時は週5回通い、今も週2回その会に参加し続けています。当事者会でいろいろな方の話を聞くことによって、お酒を飲まない生き方を30年以上しています。
【山﨑】 3回入院されて、当事者会に参加されてからは、お酒はもう1滴も飲んでいないのですか?
【月乃】 飲んでいません。
自助グループの活動
【山添】 当事者会は自助グループのことですよね。どういったことをされるのでしょうか?
【月乃】 自助グループで基本的に行われるのは、自分の体験や感じていることを話すことです。
今日、見てくださっている方の中には、今まさに飲酒や依存に苦しんでいる方、あるいはその家族として共感している方が何人かいらっしゃるかもしれません。「自分だけがこんな変な人間だ」と思っていたけれど、実際、自助グループに参加してみると似たような悩みを抱えている人がたくさんいることを知りました。
そのとき、初めて「自分だけじゃない」と感じたんです。そして、お酒も薬もやめ、ギリギリではありますが、働いて家族も持ちながら生きている方と話したとき、自分の人生のモデルを見つけたと思いました。
【山添】 マイノリティじゃなくなったんですね。
【月乃】 おっしゃる通りです。自助グループで、「この人と同じように進めばこんな風に生きていけるんだ」という人生のモデルを見つけられたことが、私の背中を押してくれたんです。
【山添】 当事者の方々とお話する会があるということは、当事者やそのご家族はもちろん、依存症と接点のない生活を送っている方々、視聴者の皆さんも、おそらく既に知っている情報ではないかと思います。その中で、自分のモデルとなる人が見つかったことが、月乃さんにとってどんな気持ちの変化を生んだのか、そしてアルコールと向き合う気持ちがどのように変わっていくものなのでしょうか。
【月乃】 知っているアルコール依存症の方々の中には、再び入院してくる人や残念ながら亡くなる方もいました。
【山﨑】 それは、アルコールによる体の病気が影響しているのでしょうか?
【月乃】 そうですね。アルコール性てんかんを患っている方もいれば、自ら命を落とすケースもあります。一方で、自助グループの人を見てみると、お酒をやめてギリギリでも生きている。苦しくても、しがみついて生きることを選ぶ方がまだ良いと、私はそう感じるようになりました。その選択肢があることに生きているうちに気づけたのは良かったと思っています。
【山﨑】 最初の1回目の救済としては、医療システムを使うことが大切ですよね。でも、その後、精神的に自暴自棄になって、人生に希望を見出せないと感じることもあると思います。そうした中で、自分が「ここからでもやり直せるんだ」という希望を持てるようになったのが良かったということですよね。
【月乃】 でも、今日、こうして著名なお笑い芸人さんとお会いできて、ちょっと舞い上がっている自分がいます。帰りの新幹線でお酒を飲む可能性もゼロとは言い切れません。
【山﨑】 その恐怖って夢で見たりすることもありますよね。
【月乃】 時々、そんな夢を見ることもあります。もちろん、そうなる可能性はゼロではないですが、それでも一歩一歩、お酒を飲まない日々を続けていくことが大切だと感じています。それをただ話すだけでも、誰かの力になれればと思っています。根本的には、一生お酒を飲まない覚悟を持って、日々を積み重ねていくつもりです。
【山﨑】 月乃さんは自助グループに入ってすぐにお酒をやめられたのですか?
【月乃】 いいえ。実は、何回かスリップしています。
【山﨑】 飲んでしまったら気まずくて、自助グループに行きにくくなるということはないんですか?
【月乃】 自助グループはそういう人が戻ってきたときは大歓迎です。依存症の回復の過程として、スリップは当たり前の過程なので。

いま大事にしていること
【山添】 お酒をやめて33年になるとおっしゃっていましたが、月乃さんが最も大事にされていることは何ですか?
【月乃】 そうですね、まずは「今日1日お酒を飲まない」という意識を持ち続けることが大事だと思っています。そして、つながる先と居場所を見つけることが重要です。私は自助グループや「こわれ者の祭典」という自分にとっての居場所を見つけることができました。依存症の方やそのご家族が生きていく上で、どこかしら自分がつながれる場所を見つけることが、最も大切だと感じています。
同じような悩みをもつ方へメッセージ
【山﨑】 最後に、コンプレックスやアルコール依存症と向き合ってきた経験を通じて、同じように生きづらさを感じている方々や依存症で悩んでいる方々に伝えたいことはありますか。
【月乃】 今この動画を見ている方の中に、当事者の方々だけでなく、もしかしたらギャンブル依存症やアルコール依存症を抱えるご家族がいらっしゃるかもしれません。そういったご家族の方々にも、「家族会」などがあり、そこでは依存症当事者を支えながら前に進んでいる家族のモデルや生き方を知ることができます。
いろいろな場所に足を運び、リモートで参加できる場もあるので、そこから多くのサンプルやモデルを見て、学んでいただきたいということです。私自身、「こんな人でも生きている」ということを伝えたくて、活動しています。
【山﨑】 依存症についてあまりまだ知らないという方に向けてもメッセージをお願いします。
【月乃】 依存症は「病気」です。悪い意味ではなくて、たとえば糖尿病や風邪のように、依存症も過程や原因は人それぞれです。しかし、依存症に一度なってしまうと、身体的な反応ですので、これは精神的な問題ではなく、特有のアレルギー状態のようなものだと考えることが大切だと思います。風邪をひく原因が薄着をしていたとか、人が多いところに行ってウイルスに感染したとかいろいろなように、依存症もその原因はさまざまです。風邪の場合、暖かい部屋で休んだり、薬を飲んだりするように、依存症にも治療のプロセスがあります。
依存症になった場合も原因探しもいいですが、正しい治療を受けることが必要です。正しいプロセスを踏めば、どんな人でも回復するということを皆さんに強く伝えたいです。

依存症に悩む方々のために、相談できる場所が全国各地にあります。
当事者の方はもちろん、身近な仲間が依存症で悩んでいるという方もぜひ相談機関をお尋ねください。
依存症対策全国センター
https://www.ncasa-japan.jp/you-do/treatment/treatment-map/
※言い回しや重複など動画の発言とは一部異なる記述となっています。