【対談記事】ギャンブル等依存症:身近な病気
「ギャンブル等依存症」とは、ギャンブルに対する欲求を抑えられなくなり、社会生活に支障をきたす病気です。本人の意思の弱さや性格の問題ではなく、ギャンブルを経験したことがある人であれば、だれでもなる可能性のある病気です。
依存症啓発サポーターのお笑い芸人「相席スタート」の山﨑ケイさんと山添寛さんが、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんをゲストにお迎えし、「ギャンブル等依存症」についてお話を伺います。
プロフィール
山﨑ケイ(相席スタート)
千葉県出身。NSC東京校13期生。2013年に相方の山添寛とコンビ「相席スタート」を結成。 2016年M-1グランプリファイナリスト。 ルミネtheよしもとなどで活動しているほか、「ザ・ラジオショー」(ニッポン放送)のラジオパートナーも務める。
山添寛(相席スタート)
京都府出身。NSC東京校14期生。お笑いコンビ「相席スタート」として活動。2016年M-1グランプリファイナリスト。趣味・特技は、とんかつ、鍋、麻婆豆腐、ボードゲーム、ボートレース、ギャンブル、心理戦。
田中紀子(公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表)
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症の当事者家族という立場も経験。講演やイベントを通じて依存症という病気についての啓発活動や予防教育、依存症当事者やその家族に対する支援活動を行っている。著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書) ギャンブル依存症問題を考える会HP (https://scga.jp/)
【山﨑】 本日のテーマはギャンブル等依存症ということで、「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんにお越しいただきました。よろしくお願いします。
【田中】 よろしくお願いします。今日は仲間に会うつもりで来ました。
【山﨑】 実は、以前にも別の機会でお話しさせていただいたことがあるのですが、田中さんって本当にパワフルな方で、依存症に悩まれた過去があるなんて感じられないんですよね。ギャンブル等依存症に悩んでいる方やそのご家族の前でも、軽妙に話をして場を和ませる力がすごいんです。
【山添】 田中さんが代表を務める「ギャンブル依存症問題を考える会」というのは、どのような活動をされているのですか?
【田中】 元々は、各地で相談会を開くところから始まったのですが、カジノ法案の議論などを受けて、啓発活動や予防教育、さらには政府に対して政策提案なども行うようになりました。活動の幅は広がってきていますが、基本は当事者やその家族への支援活動です。
身近なギャンブルから依存症に至るまで
【山﨑】 ギャンブル等依存症は、一番なりやすいと言うか、最初は娯楽として楽しんでいたものが、気づいたらボーダーを越えてしまうというのが怖いですよね。依存症に陥るきっかけは簡単に思えるけれど、その境界がとても曖昧で、みんな気づかないうちに入り込んでしまうイメージがあります。
【田中】 そうですね。本当にいつの間にかなっちゃっているというか、誰しもみんな始めたときに、自分がギャンブル等依存症になるなんて思っていないですからね。
【山﨑】 田中さんも過去ギャンブル等依存症だったということですよね?
【田中】 私はボートレースにハマったんです。それが本当に面白くて、気づけばどっぷり浸かっていました。
【山添】 僕もギャンブルはするので、他人事とは思えないです。毎回「無理のない範囲でご購入ください」という注意喚起があるんですけれど、なかなかそうもいかないですよね。

相席スタート・山添の依存症疑惑
【山﨑】 山添くんもギャンブル依存症疑惑がありまして。私も現役でお金を貸している状態で、今返済のターンが回ってきているんですよ。
【田中】 お二人は借金が「絆」だというお話を聞いたことがあるのですが。
【山﨑】 まあ、都合いいいように言われてる部分もありますが。
【山添】 でも確かに、絆は感じているんですよ。必然的にやりとりも増えますし。
【田中】 それはギャンブラーの言い分ですね。
スクリーニングテスト「LOST」
【山﨑】 さて、今日は山添さんの勉強にもなるかと思いますので、ギャンブル等依存症についてしっかりと学んでいきたいと思います。まず、山添さんがギャンブル愛好家なのか、ギャンブル等依存症なのかをテストできるスクリーニングテストを用意しました。
【山添】 愛好家のつもりです。
【山﨑】 一旦は、そういうことにしておきましょうか。スクリーニングテストでは、4つの項目にどれだけ当てはまるかを見ていきます。
まず、最初の質問です。「ギャンブルをするときには予算や時間の制限を決めない、もしくは決めても守れない」どうでしょうか?
【山添】 マル!
【山﨑】 即答ですね!
【山﨑】 「ギャンブルに勝った時に、よし、次のギャンブルに使おうと考える」これはどうでしょう?
【山添】 マル!
【山﨑】 次、3つ目。「ギャンブルしたことを誰かに隠す」
【山添】 マル!
【山﨑】 うーん、なるほど。それでは、最後、4つ目。「ギャンブルに負けた時にすぐに取り返したいと思う」
【山添】 マル!なんなら二重マルです。
【山﨑】 これで4つ終わりました。田中さん、いかがですか?
【田中】 4つ目が二重マルというところに、非常に気が合うなと思いました(笑)。実際、ギャンブル等依存症の可能性が高いと言われるのは、こうした項目が2つ以上当てはまる場合です。そして、私たちの研究結果で、4つ目の質問項目が一番ギャンブル等依存症の方が共感する質問だということが分かっています。
【山﨑】 確かに、ギャンブルする人って、負けたら取り返すのが当たり前だと思っているところありますよね。
【田中】 その通りですね。その勝負に挑むことこそがギャンブルの醍醐味だと思ってしまうんです。
【山﨑】 ギャンブルに夢中になっている人って、たとえばパチンコで負けても「1日遊んで5万円なんて勝ちみたいなもんですよ」とか、よく分からない言い訳を始めたりしますよね?これも依存症の典型的なパターンですよね。
【田中】 自分にとって都合が良い理屈がいくつも思い浮かんでしまうっていうのはあります。ケイさんご自身はギャンブルされるんですか?
【山﨑】 私は全然しません。
【山添】 ケイさんは過去にギャンブル好きな男性と付き合っていたことがあるから、理解もあるんですよね。
【山﨑】 そうなんです。昔、パチンコが好きな彼氏がいて、一緒に新台初日の朝に並んで整理券を取ることもありました。
【田中】 やはり女性がギャンブル等依存症に進んでしまう原因としては、彼氏に誘われてというパターンが一番多いですね。実際に私も今の夫と付き合ってたときにギャンブルにハマりました。だからこそ、ケイさんが持ちこたえられたのはすごいなと思います。
【山﨑】 うーん、私はゲームとかあんまりわからなくて、ギャンブルのやり方がよくわからなかったので、そっち側には行かなかったんですね。
【山﨑】 さて、先ほどのスクリーニングテストの結果を1つずつ振り返っていきたいと思います。まず1つ目、「Limitless」ですね。
【田中】 ギャンブルをする際に「今日は5万まで」といった予算や時間を設定するんですけれど、それを守れないことが多いんですよね。設定した額をオーバーしてしまうこともよくあります。「今日はこれくらいで」と決めても、結局その金額を超えてしまったりしますか?
【山添】 はい、決めたことはもちろんあります。でも、そのリミットに達した時にはもう話が変わってきてしまうんです。
【山﨑】 話が変わる?自分で変えているのに、まるで不可抗力みたいな言い方してますけれど。
【山添】 そうですね、決めておきながら、結局そこまでの覚悟ができていないんだと思います。
【山﨑】 でも、使っちゃいけないお金ってありますよね。たとえば生活費とか、必要なお金があるのに、それを使ってしまうことがあるっていうのは、結構怖いですよね。
【山添】 実際、もし手元のお金がなくなったら、生活できなくなってしまいますよね。その分を稼がなければならないと感じるから、次のギャンブルの理由を探し始めることになります。
【山﨑】 それは最初の予算設定が間違っているってことになりますよね。
【田中】 私も実際にそうだったんですよ。私がハマっていた時、子供もいて、絶対に使っちゃいけないお金がたくさんあったんです。でも、ギャンブルに使っちゃって…(苦笑)。子供の月謝支払いが滞ってしまったこともありました。お金の優先順位がどんどん狂ってしまうんですよね。山添さんは十分なギャラもあって報酬の面でもなんとか回ってらっしゃるかと思いますが、当時の私は本当に回らなくなってしまっていましたね。
【山﨑】 次に2つ目ですね。「Once again」についてですが、ギャンブルに勝ったらそのお金を次のギャンブルに使おうと考えるということです。これは良くないことですか?
【田中】 これはまさに「軍資金」ですね。
【山添】 次勝つための。
【山﨑】 も、何か払わなきゃいけないものもありますよね。たとえば、子どもの月謝とか、払うべきお金が他にもあるじゃないですか。それをそっちに回さないんですか?
【田中】 依存症になる前は、みんなで美味しいものを食べようとかできるんですけど、依存症になると、もう次のギャンブルのためのお金としてしか見えなくなっちゃうんですよね。
【山﨑】 次に3つ目ですが、「Sercret」。つまり隠してしまうことですが、どういった点が問題なのでしょうか。
【田中】 隠してしまうというのは、ギャンブル等依存症が進行するとよく見られる特徴ですね。お金の問題が出てくると、怒られたり、借金している人がいたりして、それを隠すようになっていくんです。私もそうでした。怒られるのが嫌で、絶対に黙っていました。
【山﨑】 周りに怒る人がいたんですか?
【田中】 そうです。お金が回らなくなって、借りている人もいましたし。
【山﨑】 そして4つ目ですね。「Take money back」。取り返そうとする行動は危険なのでしょうか?
【田中】 この「取り返そうとする」って考え方、ケイさんみたいにギャンブルされない方から見ると、負けているのにお金を取り戻すなんておかしいと思うかもしれませんよね。でも、ギャンブルに依存していると、「ギャンブルはお金を作る手段だ」と認知が歪んでしまうんです。それって、依存症に足を踏み入れてしまっている特徴の一つなんですよ。

自分が「依存症だ」と気づく難しさ
【山﨑】 もし、このテストをしてみて、自分や周りの人が依存症の可能性があると感じた場合、その後はどうすればいいのでしょうか?
【田中】 ギャンブル等依存症というのは、必ずお金に支障が出てくるのが特徴です。本人がまずいと思っていても、なかなか依存症に気づけないことが多いからこそ、周りの人が「これはおかしい」と感じた時には、まず相談機関に行くことが大切です。本人が本当に苦しんでいる場合もあるので、その場合は我々のような依存症の相談機関や、精神保健福祉センターに相談してほしいですね。
【山﨑】 田中さんがギャンブル等依存症に気づいたのは、どのタイミングでしたか?
【田中】 実は私、夫婦で一緒にやっていたので、自分が依存症なんて思ってもいなかったんです。でも、夫のことは「この人絶対におかしい」と感じていたんですよ。ネットで調べてみたら、ギャンブル依存症に対応している病院があるらしいよって言って、私が夫を引っ張って連れていったんです。
【山﨑】 その時、一緒に病院に行ったんですね?
【田中】 はい。行くまでは、「私にも借金はあるけど、返しているから大丈夫」と思っていたんです。でも、先生から「奥さんもおかしいですよ、多分病気です」と言われて、その時に初めて夫婦で依存症であること気づきました。
【山添】 それで、依存症の治療はどのようにしていくのでしょうか?
【田中】 ギャンブル等依存症の治療には薬を使う方法はないんですよね。私の場合は、先生から自助グループに参加するようにすすめられて、そこに繋がりました。自助グループでは、同じ経験をした仲間たちと自分の気持ちを分かち合いながら、過去のことを振り返るプログラムを受けました。
【山﨑】 そうした振り返りを通じて、どう感じましたか?
【田中】 自分がどんな時にギャンブルをしたくなったのか、どうしてギャンブルを必要としていたのかを振り返ることで、ギャンブルをやらなくても他の方法で乗り越えられるようになる訓練をしていく感じです。
【山﨑】 私はお酒が好きなんですけど、逆にお酒を飲まないと何をしていいか分からなくなることがあります。ギャンブルで得られる楽しさや満足感を、ギャンブルの代わりに何で得られるようになったのでしょうか?
【田中】 私の場合は、やっぱり自助グループの仲間たちとの時間です。本音で話せる相手っていそうでいないものですよね。本音で話せる相手がいるというのは、すごくありがたかったです。友達には見栄を張ってしまったり、ママ友には言えないこともあったりしますから。
ギャンブル等依存症で悩む方々へ
【山添】 ギャンブル等依存症の相談機関は、どこに行けばいいのでしょうか?
【田中】 自助グループは全国にあります。最近では、ギャンブル等依存症を見てくれる拠点病院も増えてきています。ネットで検索すれば、たくさん情報が出てきますよ。
【山﨑】 山添くんは予備群みたいな感じですけれど、私ができることは何かありますか?
【田中】ズバリ言いますけど、お金を貸さないことですね。
【山﨑】 やはり、そういうことですよね。まずお金がなければ、ギャンブルはできないですからね。
【田中】そうなんです。それだけで回復はしないかもしれませんが、本当に困っている人たちの場合、お金が遮断されると、生活に必要なものがなくなって、助けを求めるしか手段がなくなるんです。そういう追い込まれた方が、我々のところに電話をくれて繋がることもあるんですよ。「これが最後」と言われても、曖昧な対応はせず、「もうお金を貸さない」としっかり伝えることが一番です。その代わり、相談に行くようにすすめてください。
【山﨑】 よく聞くのが、「私が貸さないと変なところから借りることになるから、貸してしまった方がまだマシじゃないか」と言うんです。それでみんなが「そうそう」と頷いているんですよね。家族って、そんなマインドになってしまうものだと思います。
【山添】 僕もケイさんのおかげで変なところから借りずに済みました。
【山﨑】 そうそう。家族の立場だとどうしても難しいんですよね。
【田中】 その通りです。でも、そうしてお金を貸し続けてしまうと、どんどん家族も病んでしまいます。早い段階で「貸さないから相談に行きなさい」と言うことができれば、弁護士に相談したり、病院に行こうと思えるんです。本当に返せない状況が続くと、何が何でもお金を作らなきゃと追い詰められてしまうからこそ、まだ重篤ではない時に、家族が「貸さない」と決断することが重要です。
【山﨑】 ご家族の方だけで相談されてもいいんですよね?
【田中】 そうなんです。本人がまだ依存を認めたくない場合も多いですからね。たとえば、奥さんが悩んでいる場合もあります。そんなとき、家族が先に相談に行くのも良いんです。そして、お金を貸さない勇気を持つことが大事です。あと、借金に関する基本的な知識を得ることも必要ですね。借金の問題は法律的な対処法がありますから、家族がその知識を学んでおくことは非常に重要です。
【山﨑】 ギャンブル等依存症について田中さんから色々とお話を聞いてきました。山添さん、どう感じましたか?
【山添】 自分がテストで全部丸をつけてしまったことにショックを受けました。それと、気持ちをわかってくれる代表がいてくれるのはありがたいですね。
多くの人が、いつの間にか依存症になっているんだと思います。だからこそ、まずは知ってもらうことが大事だと思います。

依存症に悩む方々のために、相談できる場所が全国各地にあります。
当事者の方はもちろん、身近な仲間が依存症で悩んでいるという方もぜひ相談機関をお尋ねください。
依存症対策全国センター
https://www.ncasa-japan.jp/you-do/treatment/treatment-map/
※言い回しや重複など動画の発言とは一部異なる記述となっています。