サポーターが行く

10月24日、古坂大魔王がサポーター取材第1弾

「全国ギャンブル依存症家族の会」を訪問

依存症から回復するためには、家族や周囲の人間の支えが必要不可欠だ。しかし、その一方で、その家族をいったい誰が支えるのかという大きな問題がある。家族の中に依存症の問題があることを周囲にうち明けることができず、一人で悩みや不安を抱え込み心身が追いつめられるケースも多い。依存症の啓発サポーターを務める古坂大魔王さんが、「NPO法人全国ギャンブル依存症家族の会」を訪問し、依存症問題を抱える家族から話を聞いた。

傷をなめ合うのではなく、自分の人生を取り戻す場

「古坂さん、ようこそいらっしゃいました!」
 事務所に足を踏み入れるなり、手作りの横断幕で大きな歓声に包まれた古坂さんはまず、迎えてくれた人々の明るさとエネルギッシュさに驚いた。「ギャンブル依存症問題に悩む家族」というと、どうしても深刻な金銭問題を抱えていたり、ギャンブルをやめさせようとして家族同士で衝突していたりという暗いイメージがつきまとうが、集まった人たちはみなとても明るい。集まった家族会のメンバーは、「ギャンブル依存症の家族は暗く悲惨でいつも泣いている、という間違ったイメージを変えたい」という思いを語り、この会は依存症で悩む家族が互いの傷をなめ合う場ではなく、「依存症問題で奪われた家族自身の人生を取り戻す仲間たちの集り」だと古坂さんに説明した。

「家庭内殺人になっていたかもしれない」

 この日集まったのは、全国各地でギャンブル依存症の問題を抱える家族のサポート組織「全国ギャンブル依存症家族の会」を各地で運営して、相談会も実施している12人。福岡、新潟、大阪、群馬、千葉、神奈川から集まったメンバーは、(2019.11月現在21カ県に家族会が存在する)家族にギャンブル依存症の問題を抱える親兄弟や配偶者達だ。当事者が依存症から回復しているケースもあれば、まだ本人に依存症だという自覚すらないケースもあり、それぞれが複雑な事情を抱えている。和やかな雰囲気のなか、古坂さんを囲んで12人が自身の体験を語りはじめる。
 同居する息子が麻雀とスロットの依存症になったという女性は、「息子が黙ってお金を抜き取るので、お風呂に入る時まで財布を持っていかなければならなかった」と気の休まる時がなかったという。ギャンブルをめぐって親子喧嘩となり、息子に二階の窓から掃除機を放り投げられたという女性は、「あのままいっていれば家庭内殺人など起きていたかもしれません」と振り返った。

「病気」だとわかれば、解決策がある

 みなそれぞれ壮絶な体験をしているが、悲嘆に暮れている感じではない。この会につながったことで「救われた」からだ。「どんな話を聞いたことが、解決につながりましたか」という古坂さんの質問に対して、34歳の息子をもつ女性は、「病気だと教えてもらったことが大きい、目から鱗でした」と笑顔で答えた。彼女の息子は裏カジノにのめりこみ、数千万の借金をつくった。自宅には闇金が取り立てに来たこともある。「これまで生きてきた中で体験しなかったことが次々起きて、とても今のように笑って話せるような状況ではなかった」という。そんな時、自助グループや家族会とつながって、息子の抱えている問題が、実はギャンブル依存症という「病気」だということ、そして同じような病気に向き合う人々が多くいることを知って「世界」が大きく変わった。「ぜんぜん違いますね。病気なら治さなくてはいけないし、解決方法があるということですから」。

借金の取り立てがきたら「放っておく」が正解

 もちろん、この会が家族を支えているのは精神面だけではなく、これまでの活動を通じて蓄積した実践的なノウハウも提供している。「ギャンブルによる借金の取り立てが来た場合は家族はどうするんですか」という古坂さんの質問に対して、家族会のメンバーは口々に「放っておくのがセオリー」と即答。法的にも保証人になっていない限りは家族が支払う義務はない。家族が代わりに返済をしても、依存症問題の解決にはならないという。息子がギャンブルでつくった270万円を代わりに返済したという女性も「しばらくしてまた借金をつくってきました」と振り返る。本人が苦境に立たされ問題に直面して初めて、自分の依存症という病気に向き合えるのだ。

家族の愛だけでは「変わるチャンス=回復へのきっかけ」を逃してしまう

 ギャンブル依存症の本人や家族でよくみられるのは、依存症という事実をなかなか受け入れられず「否認」してしまうことだ。「うちはまだ仕事をしているので依存症ではない」「借金といってもまだ数十万なのでそんな病気ではない」と、家族自身も問題を「否認」してしまう。家族も度々借金に直面してやっと「何かがおかしい?」と気が付くことができ、相談機関につながり「一度病院でしっかり診てもらいますか?」「施設に入ってみますか?」という解決への提案にも素直に耳を傾けられるようになるという。家族の愛で借金を肩代わりすることは、実はこの「変わるチャンス」を逃してしまう、と家族会では警鐘を鳴らしている。

知識をクラウド化して、武器をアップデートしていく場

 このような実践的なノウハウが会には蓄積され、依存症に悩む家族に役立っている。例えば、2008年の研究では、初診時の平均年齢は39歳、ギャンブルに費やした金額の平均は1239万円というデータが出ているが(「病的賭博者100人の臨床的実態」 森山成彬、2008 精神医学)、現在は本人が20代で、家族の借金の肩代わりが100万円~500万円位で相談に繋がり、「当事者の借金問題を家族は手放す」という対応ができる人が増えてきた、と言う。この話を聞いた古坂さんは「家族会というと傷を舐め合っているという世間の偏見もあるが、ここはそんなことは全くない。知識や戦うためのアイテムをアップデートしてクラウド化している場所なんですね」と関心していた。

手を差し伸べるだけが、解決の道ではない

 ギャンブル依存症になった当事者の借金に手を貸してしまうのではなく、時に手放す愛、厳しい愛である「タフラブ」を貫き「自立」へと促し、家族は自分の人生を取り戻し楽しむ――。それが会のスタンスだ。例え、今はまだ当事者がギャンブル依存症からの回復がつかめていなくとも、家族が当事者から離れて一時的に別居したり、一人暮らしを促すことも効果的だ。その結果、家族は問題から離れられ心が穏やかになり、他の家族との関係性が良くなったり、家族自身も自信がつきもう一度社会で活躍できたり、結果として当事者の回復に繋がることもよくあるという。
訪問を終えた古坂さんは、ギャンブル依存症に対する認識があらたまったとして、このような感想を述べた。「どうしても手を貸してしまうことだけが解決の道だと思いがちですが、実は手放すことも重要。家族会というのは、病気を治すためだけではなく、家族が自分たちの人生を取り戻すための場でもあるんですね」。