厚生労働省 依存症の理解を深めるためのトークイベント
特別授業!みんなで学ぼう依存症のこと in早稲田大学
2023年11月13日

 2023年11月13日(月)、東京新宿区の早稲田大学大隈記念小講堂で、依存症の理解を深めることを目的とした厚生労働省主催のトークイベントが開催された。イベントのタイトルは「特別授業!みんなで学ぼう 依存症のこと in 早稲田大学」。イベントの模様はオンラインでも配信され、数多くの方が参加した。

(左から)チュートリアル福田さん、完熟フレッシュ池田さん、元競泳日本代表の星さん

多彩なゲストが依存症を語る

 アルコール・薬物・ギャンブル等の依存症は、適切な治療とその後の支援によって、回復可能な疾患だが、一般的には依存症に関する正しい知識と理解が広まっていない。また依存症への偏見や差別もあり、依存症の方やその家族が回復のための適切な支援につながっていないという課題もある。様々な課題解決のため、厚生労働省では依存症の理解を深めるための普及啓発事業を実施しており、今回のイベントはその一環として開催されたものだ。
 トークイベントに参加したのは、お笑いコンビ・チュートリアルの福田充徳さん、お笑いコンビ・完熟フレッシュの池田レイラさん、早稲田大学の卒業生で元競泳日本代表の星奈津美さん、国立病院機構さいがた医療センター院長・佐久間寛之先生、公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子さん、早稲田大学学生健康増進互助会(以下、早健会)の黄丁益さんの6人。経験や年齢、キャリアの異なる6人の話に参加者は熱心に耳を傾けた。


チュートリアル福田さんの体験談に驚きの声

 チュートリアルの福田さんは、2006年にMー1グランプリで優勝し、一躍有名となった。しかし、東京に拠点を移したころから、多忙によるストレスや思うように結果を残せないプレッシャーにより、大量のお酒を飲むようになったという。依存症という診断を受けたことはないものの、当時は毎晩記憶がなくなるまで飲酒をしており、とうとう急性膵炎を発症してしまったが、これをきっかけにお酒との付き合い方や飲酒量を見直すことができた、と明るく話した。福田さんのリアルな体験には、他の出演者や会場からも驚きや関心の声があがった。

お酒にはまっていた当時の体験を話すチュートリアル福田さん

 完熟フレッシュの池田さんは今年の4月に大学に進学した。未成年のため飲酒やギャンブルをできる年齢ではないが、交友範囲が広がると、お酒やギャンブルをはじめ、さまざまなものを目にするようになるのかなと話した。
 また、お笑いコンビを組んでいる父親はお酒が大好きだという。芸人仲間にもギャンブル好きな方が多く、仕事の現場ではお酒・ギャンブルの話題や失敗談を耳にする機会も多いそう。このイベントを通じて得た知識を今後の生活を守るために活かしたい、と結んだ。

勉強になるイベントだったと話す完熟フレッシュ池田さん


 オリンピアンの星さんは、自分の周りに依存症を抱えている人はいないとしながらも、水泳選手やご家族の中にもアルコールをたしなむ人がいるということで、福田さんの話は他人事ではなかったようだ。
 イベント出演を通じて、「(依存症には)縁がないと思っていたが、自分を含め誰でもなる可能性がある」と話した。また、早稲田大学内に依存症などのさまざまな悩みに関する相談窓口があることにも感心した様子だった。困ったときには学内の相談窓口をはじめ、相談できる場所に行くことが大事、と力強くコメントした。

久しぶりに訪れた大隈記念講堂で、後輩に向けて温かいメッセージを送る星さん

依存症は誰もがなり得る病気

 依存症の基礎知識を紹介するプログラムでは、依存症治療の最前線で活躍している国立病院機構さいがた医療センター院長・佐久間寛之先生が登壇し、依存症についての解説や事例、そして依存症は身近なところにある、誰でもなる可能性のある病気だということを解説した。
 依存症に関する基礎知識を学んだ後は、「もしも自分や周囲の人が依存症の問題で困ったときにどうすればいいか」を出演者で話し合った。このプログラムには、早稲田大学内で健康に関するイベントの企画運営を行う早健会の黄さんと、ギャンブル依存症問題を考える会代表の田中さんも参加した。自身もギャンブルと買い物依存症の当事者だったという田中さんは、自助グループを知ったことで回復できたという体験を語った。田中さんは現在当事者やご家族の相談支援に取り組んでいる。依存症の患者がどういった症状を抱えているのか、周囲の人はどのように向き合えばいいのかなどの説明に、参加者は大きくうなずいていた。

(左から)ギャンブル依存症問題を考える会・田中代表、さいがた医療センター・佐久間院長

 トークセッションでは、依存症当事者への接し方の例として、アルコール依存症の方にはお酒を勧めない、ギャンブル等依存症の方の借金を肩代わりしない、薬物依存症の方にやめられないことを責めないことなどが説明された。また、精神保健福祉センターや専門医療機関、自助グループなどの相談窓口があることが紹介された。
 依存症が治療と支援によって回復できる病気であることを理解し、正しい知識を持って適切な支援の手を差し伸べることが必要だということに気づかせられたイベントとなった。

イベントスタッフとして受付誘導を担当した早健会のみなさん

イベントに参加した早稲田大学の学生たち

 このトークイベントには、会員(学生)の健康の維持・増進を図るための活動や医療費給付・健康診断補助費給付などの事業を行う早稲田大学独自の互助会組織である早稲田大学学生健康増進互助会(早健会)のみなさんもスタッフとして協力した。早健会のメンバーはイベントに参加してどんなことを思ったのかを聞いた。

 トークイベントの壇上にも登場した黄さん(文学部4年生)は、アルコール、ギャンブル、薬物などいずれも経験がないとしながら、スマホやゲームに関しては、依存症かもしれないと心配になることもあるという。また、依存症の問題で困っている人への接し方を聞けたことが良かった、と話した。悩んでいる人が身近にいれば、無理やりにでも連れて行ってあげたいと思うが、本人にとっては逆効果だということも認識できたと言う。

学生代表としてトークイベントに出演した黄さん

 里地結樹さん(教育学部1年生)は、依存症がこれほど身近なものだとは思っていなかったそう。それだけに、さまざまな話を聞く機会を持つことがとても大切だと実感した。実はパチンコに夢中になっている友人がいたそうだ。一方的に注意して雰囲気を壊すのはいやだなと考えていたが、今回のイベントを通じて、依存症かもしれない方へのアプローチをどうすればいいのかなどを知ることができて、すごく勉強になったと話す。
 イベントには学びがあったと話してくれたのは谷﨑壮真さん(人間科学部2年生)だ。自分は依存症には絶対にならないだろうと思っていたが、どんな人でもなる可能性があるということを知った。正しい知識を持って、依存症で悩む人への手の差し伸べ方を考えるきっかけになったと言う。

スタッフパーカーを着用してインタビューに応える谷﨑さん

 岩田春輝さん(社会科学部3年生)が特に勉強になったと感じたのは、依存症に直面している人に、説教や批判をすること、そして正論で説得をすることには効果がなくて、それでは依存症は治らないということだった。そして他者とのつながりが治療に効果的だということがわかったことが大きかったと話してくれた。苦しさを抱えている人と積極的なコミュニケーションが何らかの解決になるのではないかと思ったというのだ。

得た知識をどのように広げるか

 トークイベントに参加したことで、早健会のメンバーは依存症についての意識がどう変わったのだろうか。
 黄さんは、依存症かどうか判断するのは難しいが、周囲の学生の中にもそうした方がいるかもしれない。イベントで得ることができた知識をどのように広げていくかも考えたいと話した。
 “Addiction(依存症)の反対語はConnection(つながり)“という言葉に感銘を受けたと語ったのは里地さんだ。依存症当事者の体験事例を聞いて、「社会からの孤立」が本当にあるのだということを認識し、田中さんが話した「人とのつながりやたすけあいが大切な役割を果たす」ということに関心を抱いた。また、学内の相談窓口に加え、自助グループなどの学外の相談窓口があることを覚えておきたいと考えるようになったと言う。
 依存症は、なってしまった本人の問題だと思っていたと言うのが谷﨑さん。しかし、依存症で苦しんでいる方もなりたくてなったわけではないし、だれもが依存症になる可能性があるということがわかった、他者とのつながりが依存症になる可能性を少なくできたり、患者を治療に向かわせたりすることができるかもしれないと、学びにもなった。そして、そうした可能性がある人も周囲にいるかもしれないということも今回の気づきだったと話してくれた。
 周りの人の生活環境に目を配りたいと話すのは岩田さんだ。依存症だと自覚しないまま、大量に飲酒している人もいるかもしれないので、そういった方にアプローチをすることも大切だと思ったと言う。
 今回のトークイベントは、学生たちにとって依存症を自分の問題として考え、どのように向き合うかを考えるきっかけともなった貴重な体験となったようだ。

インタビューに応じた早健会の皆さん。左から谷﨑さん、岩田さん、里地さん、黄さん

本記事は「時事ドットコム」(2023年12月25日公開)にも掲載されています。

提供:厚生労働省「依存症の理解を深めるための普及啓発事業」事務局

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開催日時2023年11月13日(月)17:00ー18:30
会  場早稲田大学 大隈記念講堂 小講堂(東京都新宿区戸塚町1-104)
対  象早稲田大学関係者(学部生・大学院生・教職員など)
主  催厚生労働省
協  力早稲田大学学生健康増進互助会
出演者チュートリアル 福田充徳さん
完熟フレッシュ 池田レイラさん
元競泳日本代表 星奈津美さん
国立病院機構さいがた医療センター 院長 佐久間寛之先生
ギャンブル依存症問題を考える会 代表 田中紀子さん