「第一回」東京断酒新生会(アルコール)
つらさ共有が「一番の薬」
前園真聖さんは、2013年に酒に酔って暴力事件を起こし、現行犯逮捕された。この時、「家族、友人に悲しい思いをさせたのがショック」と痛感。それ以来、断酒を続けている。依存症だったわけではなく、支援組織などの助けを受けず飲酒を絶ったが、今回訪問した東京断酒新生会は、アルコール依存に苦しむ人、苦しんだ経験を持つ人が集まる自助グループの「例会」。各地の公共施設などで連日開催している会合の一つで、「酒浸り」の日々に戻らないために参加者が語る過去や現況に静かに耳を傾けた。
この日の例会に参加したのは約10人。自身が飲酒を始めた経緯、朝から酒を飲みながら仕事をしていた時代のつらさなどを順番に話した。
背筋をピンと伸ばして聞いていた前園さんは、「依存症を隠し、言えないというのが本人は一番つらいのではないか。言えば楽になっていくし、言える環境づくりが大事だと思う」と語り、経験を共有しあう場が依存症の回復に効果があると実感した。
依存症になる仕組みは医学的に解明されている。アルコールの摂取で快楽物質ドーパミンが脳内に分泌されるが、飲酒が習慣化するとドーパミンが出にくくなり、焦燥感や不安さえ感じるようになる。脳が快楽を求めるため摂取量が増加。悪循環がエスカレートすると本人の意思ではコントロールできなくなってしまう病だ。
専門病院での治療が必要なアルコール依存症患者は100万人強に上る。しかし、実際に治療しているのは外来で年9.6万人程度しかいない。その原因について、自身も依存症に苦しんだ東京断酒新生会の保坂昇事務局長は「自分が依存症だと認めようとしない。認めたくない」ことにあると説明。治療への第一歩は「家族の説得によって専門医を訪れるケースがほとんど」「回復に向けても家族の役割が極めて大切だ」と指摘する。
このため断酒会は、依存症患者の家族を歓迎。家族だけが集まる例会も開催している。
病院などで治療を受けて身体からアルコールを完全に抜いても、その後が極めて重要になる。脳内にいわゆる「快楽を求める回路」が残っており、「一口飲酒すれば、また元の状態に戻ってしまう」ためで、やめ続けることが不可欠だ。
断酒会は、飲酒をやめ続けるための自助グループとして運営されており、例会は言いっぱなし、聞きっぱなしが原則。「同じ経験をした人の話を聞くことが一番の薬になる。聞くことによって自分はどうだったかを考え、依存症だった自分を見つめ直せる」というのが、今回の例会参加者の言葉だ。
また、話すこと自体が依存症の人にとって大きな助けになる。「依存症だと知られるとレッテルを貼られ、社会から排除されてしまう。カミングアウトもできず、孤立してしまう」のが日本社会の実情。周りに隠しながら飲酒を続け、依存症に陥ってしまう。「話すことで気が楽なる」のだが、それさえできないのだ。
前園さんは「本当は周りの友人や会社の仲間に言えた方が楽になる。日本は依存症の方への配慮、回復を助ける環境が整っていないと思う。『頑張ってね』と応援してくれる人、やめていることを『すごいね』と励ましてくれる人がいると、依存症の方も前向きになれる」と語り、依存症をめぐる社会環境や周囲の意識変化の重要性を訴えた。